当ぺージは「こまき新産業振興センター様」に取材して頂いた内容を一部抜粋したものとなります。
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野菜くずの炭素化で収益化+処理費用を削減

触媒と野菜くずから価値ある粉末カーボンを生成

スーパーやコンビニエンスストアで手に入るカット野菜。
購入すればそのまま食卓に並べたり、すぐに調理を始められる手軽さで、共働き家庭の増加に伴って市場を伸ばしている。
この手軽さの一方で、野菜をカットして販売されるまでには製造工程で皮や芯、ヘタといった野菜残渣ざんさ(野菜くず)が大量に排出されるという問題も生じる。
地球環境に直結するこの問題に対するソリューションを提起しているのが、小牧市本庄にある株式会社永吉である。(代表:小西由晃)

「今後は『炭吉』納入先の顧客様が、カーボンの収益で、廃棄物処理費用を賄えるようにすることが課題」。
カーボンの販売は商社を通じて行うが、自分たちでも情報収集し、独自販路の営業も念頭に置く。

『炭吉』の原点は設備開発の中で抱いた問題意識

株式会社永吉は、プラント工事を軸に、機械装置の開発や製造、販売事業を展開している。自社の製造技術のみならず、時には化学技術を取り入れ、時には他分野とも協業しながら、新たな価値の創造に挑んできた。

創業以来、「子ども達に優しい環境を未来に残すため、技術でできることは何か」と問い続けている。

2006年に新エネルギープロジェクト脱臭装置を開発。2014年には中部経済産業局地域資源活用事業に認定。そして2021年、低温で有機物を炭素化する装置『炭吉すみきち』を開発し、販売を開始した。

この項目では、プラント設備メーカーである株式会社永吉がとくに環境との関わりが強い事業に取り組んでいく経緯と、代表の理念を紹介する。

「いま世の中は何を必要としているのか」を模索

低温炭素化装置『炭吉』発想の原点になった設備は、これまで自身で開発した廃タイヤを熱分解してカーボンを取り出す装置や、触媒を使った脱臭装置です。

これらは、企業として「いま必要としている技術は何か」を模索する中で、やはりSDGsや脱炭素社会などの環境に配慮した、現代社会の取り組みに参加できるような設備を造ろうと考えて、開発してきました。

私にとっては、それが自然エネルギーを使った発電設備や、あるいは熱分解装置でした。まず、タイヤには元々カーボン素材が使われていますから、廃タイヤを熱で分解してカーボンを取り出す設備の開発に取り組みました。

環境設備は熱やコストに阻まれ市場化に至らず

ただ、熱分解は炭化と同じなので、いわゆる高温の熱を使って、酸素を入れずに分解しなければなりません。

脱臭装置に関しては、一緒に事業に取り組んでいるスタッフが触媒や化学反応の方面に強かったこともあり、着手しました。触媒を使って生地の水分を吸着させることで、衣類などを早く乾かす乾燥機を製造したこともあります。

それから、触媒を使って臭いを分解する脱臭装置を開発しました。これは分解力が非常に強い酸素原子によって、様々な臭いを分解させるという仕組みで、2014年に中部経済産業局の地域資源活用事業として認定を受けました。

ただ、酸化コバルトや参加銀など高価な鉱物を使う特殊な触媒が必要であるため、コストが掛かりすぎることから、市場化に至らなかったものです。

8時間で1トンの野菜残渣を処理することができる『炭吉』。廃棄物処理に頭を悩ませる同業界からの問い合わせも多く、浜松ベジタブルへ見学に来る事業者もいるという。

乾燥させた野菜残渣物を機器上部から投入。

浜松ベジタブルで使用する『炭吉』は、1日3トンまでの食品残渣物物処理能力を有する。

最終的にバイオマスカーボンを抽出することができる。

小牧市内の関連会社でも残渣処理問題には苦慮

浜松ベジタブルは、愛知県小牧市にある『セントラルフーズ』の関連会社です。約13年前の『セントラルフーズ』の頃から、残渣処理の問題には頭を悩ませてきました。

コンビニエンスストアチェーンのおでんの大根の加工を引き受けており、当初は大根の残渣物を産廃業者さんに一般ゴミとして引き取ってもらっていました。ですが5、6年経つと受注が増え、同時に残渣物も増えました。

ある時、産廃業者さんから『この量では、もう一般ゴミとして引き取ることはできません。市の処理場も満杯なので、料金が上がります』と伝えられ、処理方法の変更を余儀なくされました。

従前の解決策は産業廃棄物か費用をかけた堆肥化のみ

こちらとしても、できれば残渣物を出したくはありませんが、食に関わっている以上、取引先のお客さんや消費者の方々からの、“きれいな野菜”への要望があります。

野菜の3割から4割は商品にならず、ごみになってしまいます。また、産地から届いた野菜が、全てお客さんの満足いくものであるとも限りません。
これらを産業廃棄物として出すか、どこかに依頼して費用をかけ、堆肥化するしか方法が見つからなかったのです。

残渣物の堆肥化や野菜粉末化などで解決を試みるが…

一旦は自社で残渣物の減容化に着手しました。畑を借りて野菜を生産し、その野菜を販売しながら、残渣物を堆肥にしたり、野菜パウダーを作って販売したりというサイクルを考えたのです。
しかし取引先から、『野菜パウダーとして販売するなら残渣物ではなく商品を使って欲しい』と言われて製品化が難しく、また、野菜の搾り汁が発生する問題がありました。

残渣物を牛などのエサとして引き取ってもらう方法も考えました。しかし動物たちがこちらから出るキャベツやレタスやタマネギの一部ばかり都合よく食べるわけではなく、うまくいきません。
自社でペットのエサとして加工することも考えましたが、かえって加工代の方が高くつくという状況でした。

まずは、『炭吉』独自の処理物破砕技術で、野菜残渣を細かく破砕する。

あらかじめ投入された触媒の中に破砕された野菜残渣を合わせ、低温加熱しながらスクリューコンベアのスリットで撹拌。

化学反応させて炭素化する。

触媒と共に攪拌されて化学反応を起こした野菜残渣は、カーボンとなって出てくる。

160℃以下の低温加熱方法なので、近づいても熱すぎるとは感じない。

スクリューコンベアから出てきた粉末状カーボン

地球環境の観点からも『炭吉』に注目を寄せる、名古屋大学大学院工学研究科の小林敬幸氏にお話を聞いた。

名古屋大学大学院工学研究科 化学システム工学専攻
先進化学工学システム 准教授 小林敬幸氏
NPO法人AKJ環境総合研究所 副理事長 エネルギー管理士

名古屋大学大学院工学研究科准教授 小林敬幸氏

食品残渣物を炭素化する『炭吉』の技術は完成度が高いと思います。なぜ今までこういった設備が実用化されなかったかといえば、単にその発想がなかったからでしょう。

『炭吉』は目から鱗のアイデアで、発想力豊かな永吉の小西社長が、従来とは全く違う観点から発案した設備です。英商事の『かすみ触媒』と協同し、お互いに信頼して技術開発に取り組んだ結果、実用化できるプラントが生まれました。

発端は、『ゴミの減容化を成し遂げつつ利益が生まれれば』という思いだったのでしょうが、そこに世の中の脱炭素という流れが追いつきました。今から10年前ならば、生ゴミを炭素化することで価値が生まれるとは誰も思わなかったでしょうね。株式会社永吉の小西社長に先見性があったといえます。

食品残渣の炭素化は再利用面でも好ましいフロー

メカニカルな面では、ある一定の温度条件を維持して化学反応させることや、触媒との混合割合に、『炭吉』の特許性があると思います。決して難しい技術ではありませんが、それを具現化したということ自体が創意工夫の塊です。

これまで食品残渣の処理については、その費用とその後の活用法に悩まされていたと思います。そんな中、野菜くずを扱う『炭吉』の処理方法は、その後の利用について。環境の観点からもよく考えられています。土壌改良への利用についても、生野菜は安心できる素材です。よくできたフローだと思います。

自研究室でも検証とブラッシュアップを

ただ、『炭吉』に改良の余地はありますから、私の研究室でプロセスを検証した上で『この構成で設計すれば、よりシンプルな方法でも同じ機能を発現できる』ということを、実証していきたいですね。

処理能力向上で最終的に焼却物ゼロ実現の可能性も

また、今はカット野菜の処理だけですが、今後はそのほかの生ゴミなども処理できるよう、テストしていけたら。

昨年4月に、各市町村でプラスチック資源循環利用促進法が施行されました。

今後は大半のものがリサイクルされるようになり、近い将来、燃やすものは生ゴミだけということになるのでは。その生ゴミからガスを抜いて、残ったものを炭化すれば、ほとんどの廃棄物を燃やさなくてよくなります。

『炭吉』の処理能力をスケールアップしていけば、CO2を出さないクリーンセンターや、廃棄物処理場が誕生する可能性もあります。

今後は行政とも協力して『これまで地域からゴミとして出されていたものを、地域の資源に変える』ということができるよう、大いに期待し、私もお手伝いしたいと考えています。